掲載誌名:プレゼンテーション日本版
日付:2002年1月号

タイトル:MY PRESENTATION


MY PRESENTATION 近藤正純・ロバート

オンリーワン社会の実現−−。レゾナンス社長の近藤正純氏は、それが究極の夢だと語る。オンリーワン社会とは、一人ひとりが、自分の好きでたまらないことを突き詰めている社会。それを実現することが、近藤氏の使命であり、レゾナンスの企業理念である。自身、日本興業銀行を飛び出し、起業家として再スタートを切った。そして、創業から4年目を迎えた今、オンリーワン発掘とブランド構築という新たなステージで、夢実現に賭けている。そんな近藤氏が語る、究極のプレゼンテーションとは?

【高度な依存関係を目指せ】
「例えばイチローが、今日の観客はヒスパニック系が多いから、打ち方を変えて観客に喜んでもらおうなんて考えますか?考えないでしょう(笑)。イチロー自身の軸は、いついかなる時でもぶれない。だからこそ、ファンがつき、イチローがブランドになる。僕は、顧客満足なんてウソだと思いますね。まずは、個人の軸がしっかりとあり、個人のオンリーワンがあって、それが尋常じゃないがゆえに、ファンがつくられ、ブランドが立っていくんです」

例えば、新商品を売り込むためのプレゼンテーション戦略を話し合う会議。普通のシナリオでいけば、「顧客ニーズは?」というテーマから、議論がスタートするに違いない。まずはニーズを把握する。その上で、ニーズに応えるメッセージなりPR方法が考案され、そのツールには何が最適か、が話し合われる。

そうしたやり方を近藤は否定する。 「僕のプレゼンテーションにおいて大切なのは、接点を見つけることです。通常のプレゼンテーションの場合、顧客ニーズはあるという前提から入りますよね。そこから入らないのが僕のやり方。つまり、顧客ニーズがどうだからといって、僕は自分の軸をずらすつもりはないl。『僕の軸はこれだ、僕がやりたいのはこれなんだ』という本質的なドライブ、いわばモチベーションは不変ですから。従って、僕にとって重要なのは、「あなたの軸は?夢は?接点は?」という3点です。であれば、『あなたのニーズに応えたい』ではなくて、『僕には僕の夢があり、あなたにはあなたの夢がある。じゃあ、お互いの接点をあなたの夢がある。じゃあ、お互いの接点を見つけましょう』となるわけです」

近藤氏自身、創業期は夢実現を加速させるために、自分の理想をプレゼンテーションし、いろいろな仲間を集めた。その思いは、「レゾナンス=共鳴」という社名にも現れている。だが、結局は依存関係に陥りm理想とかけ離れたピラミッド型組織になってしまった。

「僕は仲間たちに、好きなことをやろう、と理想を語ったんです。閉塞した管理社会が、今変わろうとしている。時代の変革期こそチャンスだから、何か新しいパラダイム作りをやろうじゃないか、と。その呼びかけに、みんな共鳴してくれた。でも、共鳴が何らかの行動につながるかどうかは、その人が自分の軸をもっているかどうかによるんですよ。自分の軸がないと、近藤があそこまで熱いんだったら、近藤に依存刷る形でついていこう、となる。これでは、結局のところ管理が始まって、旧パラダイムから抜けられなくなってしまう」

それが、ここ数年の悩みだったと近藤氏は語る。個々人が自分の軸を持って自立した上で、共同に何かをやることと、誰かが持っている軸に他の人が依存するのとでは、パラダイムがまったく異なる。近藤氏の理念は、もちろん前者。単なる依存関係ではなく、高度な依存関係だと指摘する。

「あるドライブを持ったAさんとBさんがいるとします。2人のドライブは全く異なるし、目指す先にある夢をぜんぜん違うものだけれど、どこかに接点がある。その接点で共同プロジェクトをやることによって、お互いの夢の実現は加速される。この関係が、高度な依存関係であり、自立した者同士の関係です。宗ではなく、AさんやBさんの夢に共鳴した人たちが、彼らの周りに集まるのでは、ぶらさがりの構図になってしまう。こうしたぶらさがり構図は、信じられないプロジェクトなんです。なぜ信じられないか。そこに関わっている全員が、そこでやるべき仕事を心底好きかどうかは分からないからですよ。好きでもないことをやらなくちゃいけないとなれば、どうしても管理が発生する。一方、本当にやりたいことであれば、管理なんかしなくても、プロジェクトは自ずと発展していく。僕の理想は、自分の軸つまり、その人だけのオンリーワンを持っている仲間をどれだけ着くっていけるかです。だから、うちのスタッフはみんな、個人起業家みたいなもの。一人ひとりが自らのドライブに従って、プロジェクトを遂行していく、社長である僕は、それをサポートする役目といえますね」

【好きなこと突き抜ける世界】
自分と相手のオンリーワンは何か、本当にやりたいドライブは何かを明確にし、そこにお互いの接点が見つかれば、一緒にプロジェクトをやる。それが近藤氏のやり方だ。だが、かくいう近藤氏も、会社を興すまでは他人の決めた価値観で生きる人生だったんだと言う。そんな生き方に見直しを迫られたのが、アメリカの大学院に留学した2年間だった。
「自分は何が好きで、何をやりたいんだってことをほとんど考えずして人生30年ぐらい生きてきたんだなってことを、痛感させられましたよ。親が、社会が、こういう大学、こういう会社が立派だっていうから、それに応えるような人生を送っている。自分の人生の主役になれずに生きているな、と。『お前はなんで勉強しにきたんだ?』と、世界中から集まってきた連中に聞かれた時、『社命で来ています』としか言えないことに、ものすごくショックを受けた。それからは試行錯誤でした。自分の軸を、自分のやりたいドライブを見つけなくちゃいけない、と思いながら2年があっという間にすぎた。答は出なかった。契機は、帰国して祖父さんの本を読み直した時のこと。僕の祖父さんは株の神様みたいな人で、そういう世界を極めた男が語る人生哲学みたいなものが、すごくおもしろいなぁとかんじた。よし、こういう本質的なメッセージを、世の中にプロデュースするビジネスを始めよう。それが、自分が好きでたまらないものだな、と確信を持てたんです」

この時、近藤氏は「オンリーワン」に出会った。朝から晩までやっても楽しくてたまらない自分だけのドライブを見つけたのである。だからこそ、近藤氏は企業理念を「オンリーワン社会の実現」におく。そしてレゾナンスという場を通じて、オンリーワンを持った、自立した個々人が出会い、接点を見つけ、何かの共同プロジェクトによって、夢の実現を加速させるためのプラットフォームを提供しているのである。

「自分の好きなことで、徹底的に突き抜けちゃいましょうという世界が理想ですね。まさに、イチローの世界。生まれながらにして持っているドライブがあるとすれば、その部分ついては奇人変人でいいんですよ。彼は、直球が来てクリーンヒットを打っても嬉しくないんだそうです。ワンバウンドのフォークみたいなとんでもないボールがきても。自然に体が反応して打っている。それがヒットになった瞬間が、たまらなく快感だという。おそらく、そんなことに快感を覚える人間なんてめったにいないでしょう(笑)。となると、その部分において、イチローは奇人変人といえる。そんなイチローは、打つことで突き抜けていればいい。ところが、もしマリナーズ優勝というビジョンのもとに、グランド整備や事務まで手伝うことになったとしたら、どうなりますか?彼のオンリーワンは、生かされなくなってしまう。大切なのは、オンリーワンの追求にフォーカスできる環境を整えること。それによって、その人の夢の実現が早まるわけですから」

【本質は何かを見極めよ】
自分だけの、その人だけのオンリーワンを見つけ、接点を探す−−。言葉で言うのはたやすい。が、ことはそう簡単にいくものでもないだろう。だからこそ、と近藤氏は続ける。いちばん大切なのは、「本質は何か?」を見据え続けていくことなのだ、と。
「オンリーワンと一口で言っても、表面に現れてくるものと、その本質にあるものとは、全然レベルが違います。例えば、釣りの好きな人がいるとする。例えば、釣りの好きな人がいるとする。じゃあ、漁師になったり釣具メーカーで働けば、彼のオンリーワンを実現することになるかといったら、そうではない。それは、表面だけを見ているにすぎないんです。その人が釣りを好きだと感じている、その本質は何かを見極めなくちゃいけないんですよ。釣りの何が好きなのか、魚の居場所を読んでいる時間が好きなのか。その喜びの瞬間を突き詰めていくんです。その答が、潮目や天候を考えながら魚の居場所を探ることだとしたら、本質としては『読みが好き』だということになる。となると、もしその人が営業マンだとしたら、どこの会社をアタックすればいいのか、どんなアタックの仕方がいいのかといった『読み』を考えるのが、好きだということになるわけです」

本質の見極めが重要であることは、プレゼンテーションにおいても変わりない。

「本質の見極めができて初めて、方法論の話になる。プレゼンテーションの手段は、そこから磨けばいいんです。顧客を開拓するために、今や、光や音まで駆使したさまざまなプレゼンテーション・ツールが使われています。手段としては、あったほうがいいかもしれない。ただ、もっとも重要で根本となるのは、自分の軸を持つことです。自分のドライブや自分の夢が分からないままに、とにかく売上をあげてノルマをこなすために、プレゼン資料を巧みに書いて受注をもらうことだけを考えていると、それが本当に自分のやりたいことかどうか分からない状況に追い込まれる。なのに、なまじツールを駆使すると、受注がとれちゃったりする。これって、結構、罪なんですよ(笑)」

ツールうんぬんの前に、まず考えなければならないことがある。第1に、本当にやりたいドライブ・軸は何なのかを、自分で確信できているか。その確信が1つでもあれば、もはやツールはいらない、と近藤氏は言う。その人の熱意や確信が、人を動かすケースは、枚挙に暇がないのだ。 第2に、相手のドライブは何か、相手の本質は何か、が見切れているか。相手のニーズではなく、あくまでも本質を見極めることが重要だ。そして第3に、相手の夢の実現と、自分の夢の実現がクロスする部分はどこにあるのかを見極めているか。もし接点がない相手なら、いくら一緒にやっても長続きはしない。あくまで、自分の本質を貫くべきである。つーるうんぬんは、この3点を押さえた上での話なのだ。この3点がないままに、いくらプレゼンのツールを磨いても仕方がない。手段が割きにきてしまっては、プレゼンテーション自体が確信のないものになってしまうだけでなく、やり続けていくドライブも途中で消えてしまうものだ。つまり、自分の本質はこれで、こんなことをやりたいという自分軸がない限り、プレゼンテーションをする意味はないのであえる。

「いや、本来はプレゼンテーションにいたらないはずだ」と近藤氏は続ける。 「究極のプレゼンテーションって、何だと思います?何も使わないことですよ。例えば、イチローにとっての究極は何かというと、バットや靴を代えるといった手段の話ではなくて、多分打たないことなんです。最後の最後まで突き詰めちゃうと、彼がバッターボックスに立った瞬間に、ピッチャーは投げられなくて、そのまま1塁にお越しください、となる。プレゼンも同じで、究極はプレゼンしないことですよ。つまり、相手と見つめ合った瞬間に、相手に『わかりました』と言わせてしまう。そうなるには、少なくとも本質的に何がやりたいのかを自分で分かっていなければ相手にも分かっていなければならない。そうなって初めて、互いの思いが瞬間に伝わり、共鳴しあえる環境が整うんです。まあ、かくいう僕も、相手の目を見つめただけで、というのは遠い道程ですが(笑)」

ツールに磨きをかけている間は、まだまだなのである。

(C)プレゼンテーションズ日本版