掲載誌名:ベンチャークラブ
日付:2001年10月号

タイトル:今月の新感覚派


レゾナンスがオフィスをカフェスタイルにした理由

一瞬、本物のカフェかと見間違うほどだ。フレンチレストランやジュン・アシダなどが入居する東京・代官山の洒落たビルの一角に不思議なオフィスがある。中に入ると、本当にカフェそのもの。きちんとしつらえられたソファーが並べられ、奥にはバーカウンターもある。だが、そんなカフェの見慣れた光景と異なるのは、席に座っているのが客ではなく、社員がノートパソコンを目の前に仕事をしていることだ。

カフェをオフィスそのものにしてしまう。そんな試みをしているのが、レゾナンス社長の近藤正純ロバート氏だ。近藤氏は同社を1998年、出版ベンチャーとして設立。以来、本の売上に応じて利益還元する「ブックファンド」や小出版社、編集プロダクションの管理部門のアウトソーシングを請け負う「パブリッシャーズクラブ」などさまざまな試みを行ってきた。

そんな近藤氏が今回、オフィスをカフェ風にしたのには理由がある。レゾナンスは今年に入って事業転換を行った。これまでは出版を中核にメディア自体を提供するビジネスを展開してきたが、そのメディアをマーケティングツールとして各クライアントに提供するブランド構築コンサルティング業に転換した。

ブランド構築は、各プロジェクトごとに作業を行うため、個別管理が必要だ。そこで同社では二人一組のペアで各プロジェクトを管理することにした。しかもそのペアを一つのカンパニーと見立て、各ペアが提案した事業提携を役員会で吟味し、事業化を決定する。その後、上がってきた収益を役員会側とそのペアが分け合う方式を採用した。「これまでの会社のように上司と部下の関係ではなく、個人が一つの事業体として存在するようにした。その人の得意分野をアピールすることによって、おのおのがさまざまな組み合わせを模索して、最適なペアを作り出す。より本業に専念させるために余計な事務作業は徹底してアウトソーシングさせる方針をとるようにした」(近藤氏)

各ペアがそれぞれに自己管理し、それぞれの都合でプロジェクトを進めていく。その結果として自由に仕事ができ、商談がスムーズにできる環境として最適と考えたのが、カフェスタイルのオフィスということなのだ。社長専用のイスもなければ、社員はどこに座っても一向に構わない。

年商五億円を達成

「金融の人から見れば、ベンチャーなのに贅沢なオフィスを使ってコスト高ではないか、とお叱りを受けるかもしれないが、仕事がしやすい環境を考え、あえてカフェスタイルのオフィスをつくった」(近藤氏) そのために、社員全員にノートパソコンと携帯電話を支給し、ネット上で各社員のスケジュールを閲覧できるようにするなど管理面でも怠りはない。では、実際の新事業のブランドコンサルティングの進捗状況はどうか。

実は、三菱地所が進めている「丸の内街ブランド戦略」にはレゾナンスが一枚噛んでいる。同プロジェクトの企画ほか、ロゴデザインの作成、小冊子、プロデュースする人選などを同社が行っている。ほかにもキリンビール、NTTドコモなどのプロジェクトにかかわっているが、同社のブランドマーケティングは既存のものとは一味違う手法を使っている。
「ブランドを認知したら買う、という時代はもう終わった。これからはスターバックスがやったような、ブランドのファンをいかにつくるかが主流となっていくだろう」(近藤氏)

同社ではクライエントの持つ固有の財産(ブランドの裏付け)を抽出し、そのクライエントが望む顧客層にアピールできる人にブランドを売り込んで、その人とともにプロジェクトを進める手法を取る。いわば、口コミを応用したマーケティング手法だ。

これまで同社は試行錯誤を繰り返しながら、事業の再構築を行ってきた。前期実績の年商は約五億円。株主には、オリックス、角川書店、NTTソフトウェアなど著名企業も並ぶ。事業の方向性も明確に絞り込まれてきた。これから本当の勝負の時を迎えるといえるだろう。


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