掲載誌名:企業家倶楽部
日付:2001年8月号

タイトル:FOCUS challenging company


「オンリーワン」をキーワードに顧客企業のファンづくりを支援

ユニーク出版企画やブックファンドなど、出版ビジネスで注目されてきたレゾナンスが、ここに来て大きくビジネスモデルをシフトさせている。「オンリーワン」や「こだわり」をキーワードにして、顧客企業のブランド構築、ファンづくりの支援に力を注いでいる。独自の手法に基づいた同社の戦略が、」静かに、確かに、世の中に共鳴を生み出している。

共鳴を生み出すビジネス

「おまえの夢はなんだ?」

レゾナンス代表の近藤正純・ロバート(三六歳)が、日本興業銀行時代にアメリカへ留学した際、世界中から集まってきた仲間に問われた言葉だ。 サンフランシスコ生まれ、慶応の中等部から大学に進み、日本興業銀行へ。会社の派遣でMBA取得のため留学していた近藤は、その質問に答えることができなかった。 何のためにここにいるのか、何のために生きていくのか。近藤の胸のうちで自問自答が繰り返された。帰国後、しばらくは興銀に勤務したものの、一度芽生えた疑問に蓋をすることができずに、興銀を退社する。当初は、近藤の祖父で株式チャート「一目均衡表」の作者である一目山人に関する本を書こうと考えていたが、同じく興銀OBで現副社長の高畑らと話をするうちに、事業構想が拡がっていった。

「レゾナンス」とは「共鳴」を意味する。これまでの同社は、出版事業を軸にして、価値あるメッセージを世の中で共鳴させることを主な事業にしてきた。沖縄アクターズスクールのマキノ正幸氏と慶応大学教授の島田晴雄氏の共著である「オンリーワン」の出版などが広く知られている。意欲的な本を世の中に出すために出版ファンドを創設。昨年六月に最終利回り11.9%という好成績で終了した。再販制度の下で苦しむ中小の出版社が編集作業に集中できるように、雑誌の販売や印刷を受託するサービスも展開し、静かではあるが、確かな共鳴を生み出して

アーリー・アダプター・マーケティング

今、レゾナンスはビジネスモデルの変革期にある。これまでの出版ビジネスの比重をさげていき、顧客企業のブランド構築やファンづくりを支援していく事業へとシフトしているのだ。もちろん、これまで培ってきた出版ビジネスのノウハウは今後も重要な武器になるが、それはひとつのツールに過ぎない。

同社のビジネスの具体例を挙げてみる。携帯電話で圧倒的なシェアを握るNTTドコモであるが、意外なことにユーザーの平均年齢が比較的高いことが課題になっていた。そこで、若者への訴求を高めるための提案をレゾナンスが行った。クラスマガジンと呼ばれる、発行部数は少ないが熱烈な読者がいる雑誌十誌の裏表紙を占有。各デザイナーにIモードのロゴを自由にアレンジする権限を与えてユニークな広告を展開した。それと連動して、若者に人気のクラブや渋谷の街頭大型ビジョンをジャックし、斬新なオリジナル映像を流した。こうして先端的な若者たちがキャッチした情報は口コミで拡がり、Iモードのイメージを高めることに成功した。この手法を近藤たちは、アーリー・アダプター・マーケティングと呼んでいる。アーリー・アダプター・マーケティングとは、常に時代の先端にあって、情報に敏感、かつ周囲の人々に大きな影響を与える人を指す。アーリー・アダプターから発せられる情報は人々との関係性に乗って広まるため、情報への新密度、信頼性のうえでも、従来のマス・マーケティングやワン・トゥ・ワン・マーケティングでは決して実現することができなかった効果を上げている。

ただし、レゾナンスは、アーリー・アダプター・マーケティングに代わる新しい言葉を、すでに模索し始めている。というのも、この言葉にはどうしても「流行に敏感な若者」というイメージが染み付いているためだ。加えて、従来のマーケティングで使われてきた要素分解の考え方(性別、年齢その他による分類)はもう古いと近藤は言い切る。 「要素分解の考え方は一見合理的なんですが、行き詰まっているのが現状だと思います。本当にオンリーワンでこだわりがあるものなら、年齢性別問わずに受け入れられますから」

オンリーワンにこだわる

 レゾナンスが、ブランド構築やファンづくりの支援をしていくクライアントに求めるのはオンリーワンであること。「企業側にこだわりやオンリーワンが無ければ共鳴など生めません。何も無いところから“ファンをつくって下さい”と言われても、“あなたに何があるんですか”という話ですから」と近藤は厳しい。

レゾナンスのやり方は、従来の広告代理店などとは根本的に異なる。今までは、クライアントのマーケティング担当者や宣伝マンと打ち合わせをして満足していた。そこで求められるのは、機能や価格などの表面的なことが中心だった。レゾナンスが重視するのはあくまでもこだわりであるため、商品開発者やデザイナーの話を最優先する。そこにこそ、オンリーワンであろうとする原点が眠っているからだ。そして、そのこだわりを見出したら、今度は共鳴しやすい形に“お題変換”させる。開発者のこだわりをいかに伝えていけるか。そこで、こだわりに賛同してくれた様々なクリエーターが登場する。従来の代理店ならば、あれこれとクリエーターに注文を出してきたが、レゾナンスは一切口を挟まない。せっかくファンになってくれたクリエーターのやる気を殺ぎたくないからだ。一度ファンになってくれたクリエーターは、思い入れが強い分、頼みもしないのに取材や講演会などでその商品について話してくれるという。まさに口コミ効果である。

共鳴の拡がりは「クリエーターの真剣さ×クリエーターの影響力」だと近藤は言う。商品の開発担当者がクリエーターと面接すれば、「こいつぜんぜんわかってないな」という具合にすぐに見抜かれてしまう。だから、どれだけ有名な芸能人を連れてきても、彼・彼女が本当にその商品に共鳴していなければ、何の意味もない。

ブランドを生かした横軸展開が企業価値の増大に結びつく

 一度ブランドが確立すると、今度は他の商品やサービスへの横軸展開が可能になる。例えば、スターバックスが注ぐコーヒーや店作りへのこだわりに共鳴するファンが増えてくれば、そのブランドを生かしつつ、スターバックスエアラインやスターバックスホテルなどが実現可能なものとして視野に入ってくる。

レゾナンスの副社長の高畑はこんなふうに説明する。 「認知度を上げるとか短期的な売り上げを上げるというのが従来の発想ですよね。われわれの狙いはあくまでもファンをつくることです。一度ファンになった企業や開発者が次に何か違うものを作ったら、買うかどうかは別として、少なくとも興味はそそられると思います。それが私たちの言っているファン作りなんです」 少し専門的な言葉で表現すれば、従来のやり方がPL(損益計算書)を上げることを目指していたとすれば、レゾナンスはBS(貸借対照表)の向上を狙っているのだ。 考えてみれば、ルイ・ヴィトンのバッグを買うのは機能が高いからだとか、まして価格が安いからではない。購入する人が、ルイ・ヴィトンの企業理念や創業者の思いをどこまで理解しているかは別として、ブランドに対してお金を払っていることは間違いない。そして、いったん世界規模でブランドが確立してしまえば、バッグにととまらず、口紅やスカーフなどあらゆる商品へのグローバルな横軸展開が可能になる。「これだけ人件費が高い先進国だと、機能や値段で勝負しようとしても無理じゃないですか。そうするとブランドを持っている企業が有利になってくるんです。世界中にファンが散らばっているんですから」と高畑。

レゾナンスのようなビジネスモデルが受け入れられつつあるのは、日本がようやく成熟社会へ足を踏み出しかけていることの証と言えるかもしれない。

ひとりひとりがオンリーワンの社会へ

 今後の課題として挙げられるのが、顧客企業からの支払いを成功報酬型へとシフトさせていくことだ。 「現状は企画に対してのマージンを取っています。その方がクライアントとしても分かりやすく、稟議も通しやすいですし。これからは、どのくらい共鳴が拡がっていったのか、何らかの指標を作って、成功報酬型に変えていきたいと考えています」と近藤。新規の取り組みとして、かつて出版ファンドで成功したファイナンスの発想を、ファンづくりのビジネスでも取り入れていこうとしている。大企業とベンチャー企業を巻き込んで、ある種のコンソーシアムを形成し、そこに“共鳴ファイナンス”の概念を取り入れるという構想だ「大手企業がオンリーワンを見つけるのはなかなか難しい。創業時ははっきりしていたはずなんですが、時が経つに連れて“何だっけ?”となってしまう。逆に成功しているベンチャーはそこがはっきりしています。ですから、熱い思いを持ったベンチャーと、それに共鳴した大企業がいっしょになって何かできないかと考えているところです」将来は株式公開を展望しているが、あくまでもこうした枠組みが固まってからの話だと、地に足をつけた姿勢を崩すことはない。 近藤の夢は、個人個人がオンリーワンな存在として共鳴し合う豊かな社会をつくること。

 そのためにレゾナンスがあり、近藤自身のビジョンとベクトルは一致している。これは企業にも言えることで、オンリーワンのこだわりのない会社など残っていけるはずがない。まして、「何でもできます」という大企業ほど、オンリーワンな企業がたくさん出てくれば、「何もできない」会社に落ちこぼれていくしかないと、近藤は考えている。「イチローも野茂も記者会見でムスッとしていますよね。四割打ててすごいとか、ノーヒットノーランおめでとうとか周りは言いますけど、本人たちは満足していないと思います。イチローは十割打ちたいし、野茂は二十七球で試合を終わらせたい。そういうこだわりを持って突きつめていく姿が、感動を呼び、共鳴を生むのです」と近藤。今の近藤には「おまえの夢はなんだ?」と問われても即座に答えを返せる夢がある。(百瀬平和)

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