掲載誌名:夕刊フジ
日付:2000年9月20日

タイトル:常識打ち破り出版界に新風(下)


IT時代のe-ピープル<34>
レゾナンス
近藤正純ロバート社長(35)

「1万部超の単行本をコンスタントに」

近藤正純ロバート(35)は、食品商社勤務の父親の仕事の関係で米サンフランシスコに生まれた。慶応大学経済学部を卒業後、日本興業銀行に入行、94年から2年間、コーネル大学大学院ビジネススクールで学び、MBA (経済学博士号)を取得。まさに順風満帆のエリートコースを歩んでいた。

そんな近藤が突然、興銀を退社した。バブル経済が崩壊し、「終戦直後の焼け野原と同じ」状況に一変。「お金や社会的地位 より、精神的な豊かさや知的冒険にチャレンジしたい」と出版ベンチャー、レゾナンスを2年前に設立した。  

 「銀行マン時代に中小企業のオーナー社長さんたちとお話する機会が多くありました。皆さん、とても頑張っておられましたが、横のつながりがなく、経費のムダが目立ちました。そのとき、“人のネットワーク”を作れば、コストダウンができ、アイデア次第ではビジネスチャンスになる、と思ったんです」

 興銀時代の同僚だった高畑龍一(36)や阪急電鉄を退社した井上貴弘(32)、嘉本明史(30)、講談社で「ワイルド・スワン」「フォレスト・ガンプ」などのベストセラーを編集した磯尾克行(32)らが近藤の考えに賛同。「共鳴」を意味する「レゾナンス」に結集した。

 そして、2年満期で4000万円の出版費用を他社から調達する「ブック・ファンド」、中小の編集プロダクションのための資金調達から経理、マーケティング、広告宣伝までサポートする「パブリッシャーズ・クラブ」、インターネットによる無料のコンテンツサイト、フォーラムの開設など、斬新なアイデアから生まれた出版ベンチャーを展開している。

 「出版事業は他の業種に以上に生産効率が悪い。特に編集プロは付加価値の高いコンテンツの制作能力を持ちながら、他のことに煩わされてうまく機能していません。売り上げによって利益還元するファンドなどを利用することで、出版界の“スクランブルチェンジ”が可能になるはず」

斬新なアイデア

 このほか、インターネットを使ったオンラインの物販、データのインフラ化、放送やCDなど、他のメディアと連動させた出版事業を狙う。

 もちろん、同社の出版企画を通すのは厳しい。「クロスメディア展開ができないような企画は即ボツ」。その中で「オンリーワン」(2万5000部)、「跳び箱神話」パート1・2(各1万部)など確実に部数を伸ばしている。

 「今はコストダウンをしっかりやり、きっちり売り上げ1万部を超える単行本をコンスタントに出すこと。その積み重ねが将来の実績になるはずです」

 出版業界は“冬の時代”といわれている。年間何冊かのベストセラーはあるものの、以前のように10万、20万部の中ヒット作がなかなか出ない。そのため、中小の出版社は有望と思われる企画があっても手がつけられないということもしばしば。

 そんな出版環境の中、「出版界のプラットホームに」という同社の業務が今、注目を集めているのだ。