掲載誌名:夕刊フジ
日付:2000年9月19日

タイトル:常識打ち破り出版界に新風(上)


IT時代のe-ピープル<33>
レゾナンス近藤正純ロバート社長(35)
常識打ち破り出版界に新風

あふれるアイデア
「業界にはそれぞれの常識があります。が、現在の閉塞状況を打開するには業界に“非常識”を持ち込むこと。そこからビジネスチャンスが生まれる---」  

 出版ベンチャーの「レゾナンス」社長の近藤正純ロバート(35)。一昨年3月の会社設立以来、既存ジャンルの制約にとらわれず、出版界に次々に新風を送り込んできた。  

そのひとつが、「ブックファンド」。商法上の匿名組合方式で、2年満期で4000万円(1口500万円)の出版費用を印刷・製本会社などから調達。2年間で4点の書籍を刊行し、合計実売部数12万部で14.2%の利回りを上げた。  

現在の出版界で、1点あたり3万部の実売はやさしいものではない。これまでに、島田晴雄慶応大教授とマキノ正幸・沖縄アクターズスクール校長の共著「オンリーワン」の2万5000部をはじめ、月に1、2点のペースで発行。  

 また、昨年8月からスタートした「パブリッシャーズクラブ」は、中小の編集プロダクションを対象に資金調達から経理、マーケティング、広告宣伝までサポートする事業。これで、編集プロは高付加価値のコンテンツ制作に専念できる。現在50社を超える企業と契約し、年間50以上、大手出版社並みの発行点数が確保できるというわけだ。

 I T時代の出版社だけに、コンテンツの二次使用としてネット上に無料のコンテンツサイト、フォーラムを開設。多数の企業がマーケティングに利用する。  

 前12月期の売上高は2億円。 来年4月に株式公開を目指す。

 「デジタルコンテンツビジネスをリードする新事業を開拓したい。出版事業は文化の名の下に非効率な部分が多いですが、アイデア次第で生産効率は上がるはずだし、コストももっと削減できます」

興銀辞め起業家に

 「出版界のプラットフォーム会社」を自負する近藤だが、同社の立ち上げまで出版業との接点はなかった。元は日本興業銀行のエリート。年収1000万円超の職を捨て、なぜ起業家の道を選んだのか-。

 「バブルが弾け、大企業にいるのが怖くなった。今後の自分の夢が銀行では持てなくなった。そんなとき、アサヒビールの樋口会長(当時)がおっしゃったんです。『今は終戦直後の状況と同じ。焼け野原から次々と新しい企業が生まれたように、今こそベンチャーを起こすべきだ』と。何をやってもいい、好きな仕事を見つけて一からやってみたいと思ったんです。

 周囲の猛反対にもめげず、丸9年働いた興銀にさっさと辞表を出し、中型バイクの免許を取得した。「バイク便でもしながら考えよう」と思ったという。

 学生時代からやりたかった、祖父で株の神様と言われた「一目山人」の人生論を一冊の本にまとめ、出版社に持ち込んだが、どこも相手にしてくれなかった。

 「ならば、自分で出版社を作ろう」と、立ち上がった。が、調べれば、調べるほど、業界の“常識”が“非常識”に思えてならなかった・・・。