掲載誌名:編集会議
日付:2000年8月号(VOL.3)

タイトル:生活影響力あるコンテンツが価値を生む


<<レゾナンス>>
生活影響力あるコンテンツが価値を生む

コンテンツは無料の時代が来る

レゾナンスのWebへの取り組みを見る場合、特徴的なのがコンテンツに対する考え方。 「私は近い将来、コンテンツ自体は無料の時代が来ると発想を転換したんです。その上でコンテンツの本質は何かを考えた。それが生活影響力、つまり人々の考えや生活様式に影響を与える力だという結論にいきついたんです」と近藤正純ロバート氏は語る。

Webがビジネスになじまない要因である「コンテンツは無料」という流れは変えられない。この流れに対応し、Webパブリッシングをビジネスとするために考案されたのが「Jammin' プロジェクト」である。

Jammin' プロジェクトの3つのC

Jammin'プロジェクトにおける、コンテンツ(Contents)、コミュニティー(Community)、コマース(Commerce)という3つのC。まず、コンテンツは無料で提供される。そこに魅力があれば、人は集まり、コミュニティーが形成される。このコミュニティーに対し、これをターゲットにしたショップによる物販活動が行われ、収益が上げられる。バーチャルなネットの世界が、ショップというリアルな世界と融合し、収益を生み出すのだ。

ここでのコンテンツとは、雑誌である。しかも、生活に強い影響を与える雑誌(注・より根本的には人。雑誌の編集者、クリエーター)。これは、そのコンテンツが、プロジェクトへ参加するにふさわしい内容かどうかの選択基準でもある。基準は、読者の数ではなく、その雑誌の提供するライフスタイルに、強い共鳴を覚える読者が存在するか否かだ。雑誌の提案するファッションに共鳴し同じ服を買う、音楽を聴く、価値観を共有する、そういった実生活への直結が問題とされる。

そしてコミュニティーとは、読者の横のつながり。Jammin'プロジェクトで立ち上げたサイトには、いわゆる掲示板も用意されている。ここでは、同じ雑誌に共鳴し、生活に影響を及ぼし合った読者がつながり合う。ネット上でよく見られる掲示板では、当たり障りのない挨拶が羅列されていることが多いが、ここではそれがほとんど見られない。共通 の価値観をもった者同士のつながりだから、通り一遍の内容では済まないのだろう。より深く、濃密なコミュニティーが形成されていく。

3つめのCとして挙げたコマースは、こうした深いコミュニティーに物販を提供するもの。これまでのネット通 販は、店頭よりも安いというだけがウリだった。しかし、ここにあるショップの付加価値は別 のところにある。その店でしか手に入らない品を揃えた店、自らデザインした品だけを扱う店など、こだわりを持つショップだけが軒を連ねる。ターゲットが、コンテンツによって生活に影響を及ぼされた読者であるからだ。

そして、物販活動による収益は、コンテンツの制作者にも還元されていく。 「このプロジェクトは、昔からある形態に回帰しているともいえます。例えば、レコードやCDがない時代の人気バンドは、ライブ活動だけが生計を立てる術でした。イベントに呼ばれ、バンドの人気によって人が集まり、その人たちをターゲットにした露店が出された。そこで上がった収益をバンドに還元するというシステムです。このプロジェクトは、そんな原点に戻ってみようという試みでもあります」(近藤社長)

アイデンティティ不安の時代にJammin'プロジェクトが見せる新しい価値

Jammin' プロジェクトには、ビジネスという視点だけでは語られない理念がある。金融機関や大企業など、今まで頼れていたものが次々と崩壊していき、個々人の拠り所がなくなっているという社会の状況。各人が求めるアイデンティティの拠り所は、自分が「格好良い」と思うものだけに限定されてしまった。その状況で、格好良さを見つけられればいいが、もし探し出せなければ、アイデンティティは崩壊してしまう。Jammin'プロジェクトに複数のコンテンツが集められているのは、現代に生きる人々に、自分がコミットできる「格好良さ」を見つけてもらいたいからだ。

「つまり、Jammin'プロジェクトの理念とは、アイデンティティを見つけるお手伝いと、深い共感を創出できるクリエーターに、収益を提供するための手助けということになりますね」と語るのはJammin'プロジェクトでWebマスターを務める高畑龍一氏。

Jammin'プロジェクトの基本的な考え方は、すべての人がクリエーターであるということ。文章、写 真、音楽などを創出する人はもちろん、ショップで自分の選定した商品を売る人も、それを購入し生活を変化させる人も、数ある情報の中から自分の好みの情報を選んで受信する人も、すべてがクリエーターであると考える。つまり、Jammin'プロジェクトの中では、発信者イコール受信者であり、受信者イコール発信者という図式が成立していく。

今までのメディアの位置付けは、生産者が一方的に自分の生産物を消費者に発表するという場であった。それがJammin'プロジェクトでは、発信者と受信者によるコミュニティーの場そのものがメディアになっているのだ。ここには、広告主、媒体、ショップ、読者などすべてが集まる。

「既存のコンテンツを二次利用して、Webにもち込む、などという話とは次元が違います。でも、Jammin'プロジェクトのような仕組みを一つの出版社でやるのは、確かに難しい。多様化した価値観の集まりを複数集めることで、ビジネスを成立させている面 がありますからね。また、個性が強い出版社だからこそ、生活に影響を与えるだけのコンテンツを作れるという要素もある。この個性が邪魔し合って出版社同士で共同プロジェクトを進めるのが難しいんです。そんな状況だから、当社のような中立的存在の会社が仲立ちしていく必要があるんだと思います」(同氏)

レゾナンスは、コンテンツの内容に関して、それを提供する雑誌社にいっさい注文をつけることはない。生活に影響を及ぼしている読者がいるという事実だけを見て、Jammin'プロジェクトに参加を呼びかける。

どんな考え方も、どんな生活様式も、どんな格好良さも包み込み、コミュニティーを形成できるネットの世界。メジャーではなく、マイノリティーが絡み合うネットの世界。そんな社会が構築されている現在、成功するWebパブリッシングの姿は、レゾナンスの取り組みの中におぼろげにみえている。