掲載誌名:新文化
日付:1999年7月29日

タイトル:中小出版社連合 パブリッシャーズ・クラブに着手


中小出版社連合 パブリッシャーズ・クラブに着手
出版ベンチャーレゾナンス出版が新たな挑戦

出版資金を投資家から調達する「出版ファンド」や、デザイナー、写 真家などの外部スタッフに対する「スライド印税方式」採用などの新機軸を打ち出し、出版界に新風を吹き込んできた出版ベンチャーのレゾナンス出版。98年3月の会社設立からまもなく1年半を迎える同社は、小出版社としてのこれまでの経験を生かした新たな中小出版社連合戦略「パブリッシャーズ・クラブ」に着手した。

企画力のある編集プロダクションや有望な中小出版社などをグループ化、新たな出版勢力の確率を目指すというものだ。同社がいわば裏方となり、共同マーケティングや経理事務などの代行、出版ファンドの設定などを行い、編プロや中小出版社の脆弱な経営基盤をサポートしていく。閉塞感が広がる出版界に一石を投じてきた同社のこれまでを検証しながら、今後の可能性を探る。

レゾナンス出版は98年3月、元日本興業銀行員の近藤正純ロバート氏と高畑龍一氏に加えて、講談社で『ワイルド・スワン』『フォレスト・ガンプ』のミリオンセラーを連発して、フリー編集者となった磯尾克行氏の3人で設立された。

出版活動開始当初から同社では、出版界の常識を覆す施策を実行してきた。その1つが様ざまなメディアと連動させて宣伝活動をおこなう「クロスメディア展開」である。これは、出版企画の段階から始まる。同社では書籍コンセプトに沿って、作業部分ごとにアウトソーシングする従来のやり方を否定する。編プロスタッフやデザイナー、写 真家ら外部スタッフと社内スタッフが、自分たちの可能性を探りながら議論を重ねることにで書籍のクオリティを向上させ、さらに宣伝展開の糸口をも見出していく。

具体例を挙げる。同社の出版物第一弾となった『成功術Xでいこう』の著者で米国の公認会計士(CPA)取得のための専門学校の校長を務める安生浩太郎氏をくどき、新聞や雑誌に掲載している同校の生徒募集広告に自著の掲出を提案した。同書は約1万部を完売、安生氏の著作第二弾のプロジェクトもいま進行中だ。

また、アイドル歌手の安室奈美恵やSPEEDなどを育てた沖縄アクターズスクールのマキノ正幸校長と島田晴雄慶大教授が新教育論を展開した共著『オンリーワン』の宣伝活動では、昨年マキノ校長がおこなった全国タレントスカウトキャラバンに同行、会場での告知活動に参加した。さらに、会場周辺にある主要書店をはじめ、地元の新聞社や放送局、出版社に近藤会長自らが見本を持参して、売り込んだ。同書は2刷2万5千部と堅調に推移している。

TBSの人気テレビ番組「筋肉番付」の樋口潮プロデューサーに番組の内幕を語ってもらったのが『跳び箱神話』パート1・パート2の2点。企画会議の席上、「番組で本の紹介ができるか」「番組で使った"現物"の跳び箱を書店で貸し出せるか」など、この段階で宣伝プロジェクトも併せて詰めた。

近藤会長は「最初からクロスメディア展開できないような出版企画は会議で取り上げない」という。それを裏付けるように同社の出版物や近藤会長自らのインタビュー記事は昨年だけでも新聞46誌、テレビ17番組、雑誌70誌、ラジオ6番組で取り上げられている。「米国のNBCニュースや『ニューズウィーク』、英国のBBC で取り上げられたことで、情報が逆輸入され、日本のマスコミに注目されたのは大きかった」と話す。

ファンドで出版資金 スライド印税方式も

販売部数に応じて印税率を変動させる「スライド印税方式」を組み込んだ報酬体系は著者やデザイナーにとっても新鮮だった。プロジェクトの成功が報酬額に直接影響を与えるので、企画会議に参加する外部スタッフの意見・提案にも自ずと熱がこもり、相乗効果 を生む結果となった。同方式では著者やデザイナー、写真家などで個々に契約条件が異なるが、著者の場合、100万部売れれば15%〜18%の印税が支払われる。

同社が"出版ベンチャー"といわれる理由のひとつは、「出版ファンド」の設立にある。今回のファンドは、商法上の匿名組合方式を採用、2年満期で4000万円(1口500万円)の出版費用を印刷会社や製本会社などから調達した。2年間に4点の書籍を刊行して、その合計実売部数が12万部(1点当り平均3万部の実売)の場合、利回りは14.2%になるという。

同ファンドの対象書籍は 1『オンリーワン』(7月現在の実売部数=2万5千部) 2『跳び箱神話 Part1』(同=1万部)となっており、3、4点目は9月中にも決定される見通しだ。

現在の既刊書籍は、ファンド対象のものも含めて7点。その収支は、「出版業はコスト先行型なので、一点毎に見るといまは予定通 りのキャッシュアウトをしているが、9月以降徐々に好転する予定。会社の損益状況はトントン」と近藤会長。中小出版社にとって、「出版ファンド」のような資金調達法が身近な企業戦術として定着していけば、いままで出版したくても資金的な理由から日の目を見なかったものや、先伸ばしになっていたような出版企画がタイムリーに出版できるようになる。

同社は今年の5月から他の出版社との販売提携業務に着手、発売元として出版物の販売代行も行っている。有望な企画を持ちながら取次口座がないために不安定な出版環境のもとでしか出版活動ができない出版社を支援していこうというものだ。

現在取り扱っている定期刊行物は、クラブカルチャーマガジンの『ザ・フロア』、渋谷系ライフスタイルマガジンの『TOKION』の2誌で、そのほか交渉中のものが10数誌ある。この販売代行業務は、いわゆる「手数料」目的とは異なり、デジタル・オンライン化の時代を視野に入れて出版コンテンツの2次利用の可能性を追求することに主眼が置かれている。

優良企画を支援
編プロ・中小出版の協力体制確立へ


こうした発想は、中小出版社などを結集して大手出版社に対抗できる勢力を確立しようという「パブリッシャーズ・クラブ」の考え方を起点としている。これは、良質なコンテンツを制作する能力がある中小出版社や編プロに対して、次のようなサービスを提供、経理面 や資金繰り、広告宣伝などに煩わされずに制作に集中できる態勢をサポートしようというものだ。

そのサービス業務は、 1 経理事務や財務会計などの「アドミニストレーション機能」、 2 販売データの提供・分析や共同販促などの「マーケティング機能」、 3 出版ファンドの設定や株式」公開のサポート、M&A仲介などの「ファイナンス機能」、 4 コンテンツの2次利用化権の集中管理や利用料徴収などの「版権管理機能」など。

今後の出版界におけるキーワードを「優良コンテンツ制作の支援」とする近藤会長は、その方策のひとつとして「パブリッシャーズ・クラブによる編プロや中小出版社との協力体制の確立」を挙げ、「仮に毎月1万部を出版できるコンテンツが150社分集まれば、大きな勢力となり得る。これまでの取次会社の配本政策にも一石を投じられる。コンテンツのなかには今後人気を得そうな著者やクリエーターも含まれている」と語る。元銀行マンである近藤会長と高畑取締役は、MBA取得者としての専門知識を生かしながら、経理・財務面 での実務やファイナンス業務などの提供によってグループ化の仲介役を担い、双方の信頼関係を構築する。

同社が1月に刊行した『世紀末の経営術』の著者の1人は、同社の取締役でものある高畑氏。近刊予定の書籍を見ても、英会話書の『ドラマティック・イングリッシュ』と株の神様に学ぶ人生論をまとめた『一目山人』 の両書の著者は近藤会長、個人のプロデュース術を指南する『ジャパン・プロデュース』を執筆するのは磯尾氏というように取締役自らが筆者ともなる。「自らがテレビに出演したり、著作活動をすることによって、プロデュースのノウハウを蓄積していく」のが目的だそうだ。

同社では、1、2年をメドに同クラブに参加する中小出版社など150〜200社を結集し、そのなかから20点程度のコンテンツをデジタル化していく予定。グループ化によって競争力ある正味体系を目指す一方、再販廃止後を睨んだ企業武装を整える。