掲載誌名:Business Chance
日付:1998年11月
タイトル:資金集めはファンド設立がいちばん!

資金集めはファンド設立がいちばん!
出版ファンドで4000万円調達!

これからの資金調達手段として有望な"ファンド"。実体はどうなっているのか。この3月にレゾナンス出版を立ち上げ、2冊目となる単行本の出版に必要な資金を"出版ファンド"により集めた近藤社長に話をうかがった。

銀行マン時代に培ったファンド調達の手法を、出版界で適用して成功
(有)レゾナンス出版


レゾナンス出版は、元興銀マンの近藤正純ロバート氏(33歳)が、講談社の元編集者・磯尾克行氏(30歳)らと組んで、今年3月に設立したばかりの若い出版者だ。『成功術Xでいこう』『オンリーワン』などのヒット作を連発し、この出版不況の中で大きな注目を集めている。

金融業界から出版業界へという異業種に参入しての起業は、一見無謀にも思える。近藤氏によると「異業種だからこそ業界の古い常識にとらわれず斬新な発想が生まれ、チャンスが生じるケースも多いんです」。

確かに、日本で初めて出版業界に"ファンド"という考え方を取り入れたのは、元金融マンでなければ出てこない発想だったかもしれない。

出版ファンドとは、簡単にいえば投資家から資金を集めて本を制作し、その売り上げから生じる利益を投資家に還元するというものだ。1口5000万円で運用期間は2年間。その間に生じた利益はすべて、出資比率に応じて投資家に分配される。

本が売れなければまったく儲けにならないが、数百万部のベストセラーにでもなれば投資家に莫大な利益をもたらす。初回の募集では、ほとんど宣伝しなかったにもかかわらず、業界関係者を中心にまたたくまに売り切れ、約4000万円が集まった。

「実を言うと、必要な資金が半分ぐらい集まったところで新聞に記事が掲載されたんです。記事を見た個人投資家から問い合わせが殺到したんですが、結局すべて断りました」

多いときで週に150件もの問い合わせがあった。それらをすべて断った理由は、出版ファンドのリスクをきちんと理解してくれているかどうか不安だったからだという。ファンドで利益や元金を保証することはできないのに、新聞に掲載された"本5冊制作して各3万部ずつが売れれば利回りは約14%"という仮定は誤解を招きやすい。

"4打数1安打"で元がとれる仕組み。
投資家にも本づくりを楽しんでもらいたい

本の売れ行きによって業績が左右される出版業は、もともと一種のバクチともいえる。しかし投資家に利益を還元するためには、何としても利益を出さねばならない。レゾナンス出版では、投資家にリスクを開示する一方で、なるべくリスクを減らすための努力を重ねている。

例えば投資対象は1冊ではなく、4冊の本をパッケージにしている。たとえそのうちの3冊が売れなくても、1冊ベストセラーが出たとすれば十分元がとれるからだ。

レゾナンス出版の主力商品は、20〜30歳代向けのビジネス書。若者の本離れが著しい中で、本を手に取ってもらうのは簡単なことではない。

そのため、ビジュアルを多様したり雑誌風のつくりにするなど、本づくりにはさまざまな工夫をこらしている。大手出版社と違って出版点数が少ない分、一冊一冊ていねいなつくりこみができるのが強みだ。

ただし悩みは、新興の出版社のため営業力が弱いこと。社長自ら街頭でチラシで配って宣伝に努めているが、とても地方にまで手がまわらない。だがそれも、出版ファンドのおかげでクリアできそうだという。

「出版ファンドのいいところは、人とのつながりが生まれるところです。本の制作にお金を出すことで、自分の本だという意識が高まり、投資家がまわりの日とに口コミで広げてくれるのです」

現在、投資家は企業が中心だが、将来は個人投資家から1口5万〜10万円で投資を募って雑誌をつくりたいと考えている。

「投資家自身が誌面づくりに参加できるようにしたいですね。本づくりが好きな人にとって、夢のある話だと思いませんか?」 銀行マンから転身し、初めて自分のやりたいことに出会ったという近藤氏は、そう言って笑顔を見せた。

出版ファンド第1弾の対象作品がこれだ!
この7月に発行。副題は「ひとりひとりが地球上で唯一の個性」。 安室奈美恵らを輩出した沖縄アクターズスクール校長・マキノ氏と慶應義塾大学教授・島田氏の対談や、それぞれの持論の展開という構成をとっている。

写真やカラーページが多く、若者に語りかけるような読みやすい文体が特徴。すでに増刷が決定している。