掲載誌名:アントレ
日付:1998年10月
タイトル:今月の「社長になった若大将」

今月の「社長になった若大将」
(有)レゾナンス出版代表取締役
近藤正純ロバート(33歳)

学校と会社と世間体に依存した価値観の崩壊。
出版に託して問う、自分自身の新しい生き方


帰国子女にして慶應ボーイ、就職は日本興業銀行。おまけに甘いマスク。仲人が趣味のおば様なら、文句なしのトリプルA。ただしそれは本人の価値観とは全く別 次元の話である。もともと時代の流れで選んだ金融業界。興銀の仕事はエキサイティングではあったが、自分の目標に明確に近づいている感じがしない。やがて社内留学で渡米。

「業務から開放された環境で、さまざまな価値観を持った人たちと出会った。日本で自分がやってきたのとは全然違う生き方が、そこにはあったんです」

帰国した時には、バブルの崩壊で金融業界は凋落。興銀も例外ではなかった。にもかかわらず、ドラスティックな変化が起きる気配はなかった。旧来の価値観が崩壊しているのに、それに代わる価値観を見い出せずにいる日本人。そんな時、近藤氏の頭に浮かんだのは、経済記者であった祖父が「一目山人」の筆名で著した『一目均衡表』なる書物のことだった。株の理論書にして、人の生き方についても奥深くまで追求した内容を含んだこの本の現代版を、世に問うてみたい。自分が本当にやりたい目標を見出した近藤氏は、昨年12月、興銀を辞め独立する。

そんな氏に「今の日本にも素晴らしいオピニオンを持った人たちがいる。彼らをプロデュースして本を出してはどうか」とアドバイスしてくれたのが、興銀の先輩、高畑氏だった。その高畑氏らと共に近藤氏は今年3月、レゾナンス出版を設立。5月にはベンチャーの旗手、安生浩太郎氏による出版第一弾『成功術Xでいこう』の刊行にこぎつけた。同書は発売されるやいなやベストセラー。「レゾナンス」=「共鳴」の社名通 り、多くの人々がこの本の内容に共鳴してくれたのだ。

しかも同書の新しさはその内容だけではない。氏は資金調達を出版業界では例を見ない投資ファンドによって行ったのだ。出資はあえて出版関連企業だけから募った。本当に作りたい本を作って、しかも売ってみせるという意志表示。加えて大手と零細に二極化してしまった成熟産業への新しい提案でもあった。

レゾナンス出版には、氏の考え方と行動に共感をおぼえた学生が集まる。 「なぜ大学へ行くのか、なぜ就職するのか。聞いても答えられない。以前のぼくと同じなんです。なら、ここで何か好きなもの、人生を賭けたいものを見つけてやってみろ、と」

氏が出版に託しているのも、メッセージに反応して読者が「行動」を起こしてくれることであり、社会全体に新しいうねりを起こすことなのだ。近藤氏自身、今、自分が本当にやりたいことをやれる幸せを感じているという。

だから人もうらやむキャリアを捨てたことには何の後悔もない。ただし自動二輪の免許は取った。その心は 「失敗しても、とりあえずバイク便のアルバイトで食っていける」

何と好ましい青年ではないか!!

●Profile こんどう・まさずみ・ロバート。1965年、商社マンであった父の赴任先、サンフランシスコに生まれる。6歳の時に帰国。中学・高校時代には、英国での生活も体験。88年、慶應義塾大学経済学部卒、日本興業銀行に入行。同行から米国コーネル大学に留学しMBA取得。97年11月末、同行を退社。翌年3月、レゾナンス出版設立。書籍のみならず、講演、映像、音楽などのメディアを駆使した「知識人のためのプロダクション」を目指す。