掲載誌名:東京新聞(夕刊)
日付:1998年4月6日
タイトル:3青年の未来図"共鳴" 出版ベンチャーに挑戦

3青年の未来図"共鳴" 元興銀マンら会社飛び出し 出版ベンチャーに挑戦

「21世紀担うメッセージ発信したい」

大手銀行、大手出版社に勤めていた3人の青年が、「21世紀の指針となる新しいメッセージを発信したい」と会社を飛び出し、小さな出版社を起こした。会社の名は有限会社「レゾナンス出版」(東京・虎ノ門)。ビジネス書を中心に手掛け、これまでにはない斬新(ざんしん)な編集とプロモーションで、出版界の常識に挑戦するという。本が売れない時代に、青年たちの試みはどこまで通 用するのか。今月下旬に、初めての書籍を刊行する。

『自己啓発的』なビジネス書展開
斬新レイアウト 他媒体とも連動


レゾナンス出版を起こしたのは、日本興業銀行を昨年11月に退職した近藤正純ロバートさん(33)と、高畑龍一さん(34)、講談社を退職した磯尾克行さん(30)。近藤さんと高畑さんは、興銀在職中に米コーネル大学経営大学院に留学し、MBA(経営学修士)を取得したエリート行員。磯尾さんは講談社の出版部で「ワイルド・スワン」「フォレスト・ガンプ」「EQ-心の知能指数」などのミリオンセラー作品を手掛けた編集者だった。

このような3人が、脱サラを決意したのはなぜなのか。近藤さんも高畑さんも 「いい学校を出て、いい会社に就職し、そこで生涯働くという、日本的なステレオタイプの価値観の中で生きてきた」という。「だが、世界中を旅してさまざまな価値観に触れるうちに、このような生き方でいいんだという確信が持てなくなった」(高畑さん)

留学先で一緒だった2人は、4年ほど前からさまざまなことを話し合うようになり、大企業や官僚が頂点に立つ価値体系が崩壊しつつあること、多くの人々はそれに代わる新しい生き方を提示してくれるものを待っていること、を確信するようになった。

「1つのメッセージが世界中の人々い影響を与えることもある。多くの知識人が優れたメッセージを発信しているのに、それを分かりやすく伝える仕組みがなかった」と近藤さん。興銀を退社すると決めた時、周囲は猛反対したが、編集経験の豊富な磯尾さんが2人に合流し、今年3月「レゾナンス(共鳴)」という言葉を社名に冠した出版社が生まれた。

刊行する書籍はビジネス書に分類されるが、その内容は読む人を知的冒険に駆り立てる「自己啓発書」に近いという。対象は30-40代。

これまで本作りに携わってこなかったカメラマンやデザイナーに依頼し、写 真を効果的に使った読みやすい雑誌風の作りを目指す。

文字媒体だけにこだわるのではなく、テレビや雑誌、CDなど他の媒体とも連動させ、メッセージのより広い浸透を狙うという。

今月下旬、第1弾として刊行するのは、海外資格の専門学校「ANJOインターナショナル」を成功させた安生浩太郎氏が人生哲学を描いた「成功術X(エックス)でいこう」。磯尾さんが編集を担当した。「流通 経路も確保できた。出版不況を吹き飛ばす起爆剤になってほしいという期待を感じる」と近藤さん。今後は、経済学の有名教授や新進の起業家らの著書を、3カ月に2冊のペースで出版する予定だという。